ソラナミダ
「わこもおいでよ。」
ズボンの裾をたくし上げて…、晴海くんが、岩場を登る。
「足場案外滑るから…、気をつけて。」
「わ、わかった。」
言っているそばから、足元がつるりと滑って。
「あっ………ぶねー……。ホラ、掴まって。」
晴海くんの手に掴まって…登る。
彼は既に足を湯につけていて、
「……気持ちい~……。」
ぼんやりと……
空を眺めていた。
私も、裸足になって…、湯に入ろうとするけれど。
「あっつ……!」
反射的に、戻してしまう。
「慣れれば全然イケるよ?お湯の中でじっとすればOK。」
「そう?」
再度足を入れると……
「そのまま10秒!」
私の膝上をぐっと押し付けて…
出るのを阻止した。
「……………。熱いけど…、うん、大丈夫。」
「だろ?!」
「………むしろ…気持ちいい。」
カラッと乾いた涼しい夜風と……
温かい足元。
その、不思議な感覚と……
岩の間に染み入る水の音とが……
まるで調和していくかのように………
私の心の中で溶け合って。
まったりとした心地好い時間が…流れていた。
「酒…、抜けていきそー……。」
「まーた呑んでたの?」
「うん。週末だしね。」
「………。そういや…、ちょっと酒くさい?変わらないなあ、わこは。」
「……ひどっ。」
……自分は変わった、とでも…言いたいの?
「……このまま…ずっとここに居たいね。」
………また…、社交辞令?
「……そうだね。」
終わりが……来るのに?
「……タクシーのおっちゃん…、あの人、よくわこの話してたよ。」
「そうらしいね。でも、どうして私だと思ったの?」
「ベロンベロンに酔っ払って、呂律も回らなくなる癖に……、おっちゃんの世間話に、偉い的確な返事を返すってあたりかな?」
「また酒絡みか……。」
「いつも『ありがとうございます』って言ってから…降りるあたり?あと…、綺麗なコってあたり…かな。」
「………。……そう。」
まだ、そんなこと言えちゃうのか。
職業病……?