ソラナミダ
「…あ。そんなことしたら大スキャンダルか。」


馬鹿。
私…、大胆すぎ。



「……いや。」



「…って言っても、お茶くらいしかでないけどね。」


「じゃあ、ちょっとだけ…。」


晴海くんは遠慮がちに、靴を脱ぎ始めた。



…なんてオシャレなブーツ。



その隣りに並ぶ、履き潰したヒールが…


より一層、みすぼらしく見えた。









「…あ。今日仕事は終わり?」


「うん。明日は午後からだから余裕。平瀬さんは?」


「私は明日もいつもの時間に出勤!」


「…大丈夫?こんな時間にお邪魔して。」


「大丈夫。ひとりは嫌だから、ちょっとお茶飲みだけでも付き合って!」


「………。」


「…げ。ちょっと待って。」


テーブルには、紙が散らばったまま…。


「今ちょっと仕事してて…。」


「そうなんだ。…何か描いてたの?」


「…アハハ、下手くそな絵。」


「……。すげー、上手いじゃん。もしや平瀬さんて、漫画家?」


ひょいと手にとり…
私の絵コンテをまじまじと見つめる。



「あ、言ってなかった?私、CM制作の仕事してるの。」


「……へぇ~!って、え?!」


「…そんなに驚かないでよ。晴海くんが出演したCMの中にウチの会社で制作したものもあるんだって。」


「…マジで!」


「…って言っても、私の入社前の話だけどね。」




「へぇ~……。いや、結構驚いたかも。すげーな、こうやってCMってできるんだ。…ねえ、じゃあこれは?…なんのCM?」


「……。えっと…、詳しいことは話せないし、まだ案を出してる段階なんだけど…。2社競合だかさ、どうなるかもわからない。」


「…真面目だな。口堅いね。」


「ん~…。自信がないだけ。世に出るようなものなんて、なかなか作れないもんだよね。」


「ふーん……。そういうもんなんだ。…この最後に書いてるのってキャッチコピーだよね。」


「…わあ~!そこは見ないで!何か恥ずかしいから。」



私は慌てて晴海くんの手から、それを奪った。


「【最初で最後の】…」


「ぎゃあ~、言わないで!」


今度は思わず口を塞ぐ。


「なんで?いーじゃん、コレ。」


彼は私の手をとって……

いししっと笑ってみせた。




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