ソラナミダ
ほだされるな、私……。



「まあ、このドシッと構えてる感じが安心すんだよなあ…。」



………。


「それは…、誉めてんの?」



「最上級の誉め言葉っ。俺は~、そういうのって知らないから。」



「………?」



「あったかい環境で育ったんだなってよくわかる。」



「…晴海…くん?」



なんか……


変…?



「まあ、もうちょっと色気があったらなおいい女かな。」



「……。ま、まあ、色気はおいおいついてきますよ。なかなかないですよ、こんな頑丈な物件。」



「………物件って!ぶはっ……!それ、ドッシリし過ぎだろ~。」



…笑った!



「…その笑顔!テレビではしない顔だ!」


「…そう?」


「そうだよ!晴海くんの出る番組全部見てたんだから、間違いない。」


「…全部?」


「うん、全部!」


「…なんで?」




コーヒーを晴海くんの前に置くと、私も反対側に座った。




「前にさ、『めざめテレビ』で私のこと『友達』って言ってくれでしょ。『ひとりじゃない』って…。」


「良かった。見てくれたんだ。」


「…うん。すごく嬉しかった。以来すっかりファンみたいに番組全部見てみたけど…な~んか、さ。晴海くん、自分で自分を演じてるのかなぁって勝手に思った。…違ったらごめんね。」


「いや…。違わないかも。平瀬さんもさ……いつも素直で明るくて元気なイメージだけど…なんかさみしそうに見える。…違う?」


「…何で分かるの?」


「『変えられない過去』を忘れられないのは…平瀬さんだよね。まあ、勝手にそう思っただけなんだけどね。…ってか、このコーヒーうまいね。」


「…でしょ?母親直伝。」


「いいお母さんなんだろうね。」


「…うん。」


私はチラッと写真立てを見た。



晴海くんはそれきり、何も言わなかった。


…それでも、穏やかな時間が流れてゆく。
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