ソラナミダ
「…あ、そうだ。晴海くん、何か用あって来てくれたんだよね?」
「え?そーいや……、何だっけ。」
「そこ、忘れるとこ?」
「ははっ!平瀬さんの元気な顔みたら忘れた。でもまあ…いっか。」
「まあ…いっか。」
二人で顔を見合わせて笑う。
『私自身』を見てくれている。
いい人だ、と、簡単にそうひと言で表せるような人でもなくて……。
不思議な……存在。
こんなに穏やかな気持ちで居られるのも、相手が晴海くんだからなのかもしれない。
「ねえ、俺もこれやってみたい。」
「ええっ?」
晴海くんが鉛筆を握る。
俳優さんが…CMプランニング?
「世に出回らないからいいじゃん。ここだけの妄想CM?」
「…やば…、面白そう。」
「だろ?やろー、平瀬さんも。どっちが沢山できるか勝負。それにさ…、一人は嫌だって平瀬さん言ってたから…。」
「え?そんなこと言った?」
「言ったよ!今日会ってすぐに!」
言った本人だって忘れてるのに、ちゃんと聞いてるんだ…。
「色々な職業の仕事に触れる事ってさ、自分の糧になりそうじゃん?作る側の思いを知れば…、演じ手もそれに応えようとできる。それと俺、自分で言うのも何だけど…こういうの得意。」
「そこまで言うなら…してみる?」
「うん。漫画みたいになるかも。」
「いいんじゃない?要は、発想だもん。見ている人に伝わるような数秒間を…自分で作れるってワクワクするんだよね。まだ一個しか採用されたことないけどさ、嬉しかったなあ……。…な~んて、ゴメン、一人でペラペラと。」
「ん。分かるよ。演じる側も同じだから……。」
「……そっか…。」
私達の仕事は、人に見てもらうことで始まる。
作り手と演じ手に…
こんな共通点があったんだ。
少しだけ……
彼と私のその距離が縮まったように思えた。