ソラナミダ
「…時間のつじつま合うようにするの?」


「そう!1時間後って言ったからにはその通りにしないと。疑い深いから、誤解されないようにしてる。」



「…へぇー…。大事にしてるんだね。」



「うん。」



「あ、ねえ。その人って……」



【やっぱり芸能人?】
…なんて聞こうとおもったけれど…



そこまで踏み込むのは、何となく気が引けて言葉を飲んだ。



「そいつ?…芸能人だよ。」



「……そんなことまで言っていいの?」


「…平瀬さん聞きたそうな顔してたから。」


「…うっ…。」


「わかりやすくていい、裏表ないよなー。」



「…単純ですから。」



「ははっそこまで言ってないよ。」


「………。」



「ところで…、酔い醒めた?」



「う~ん、頭はイタいけどね。」



「この前いれてくれたコーヒー、おいしかったな。」


「…もしかして、催促してる?」


「酔いさましにもなるね。」


「…そうだね。でも、私はあと寝るだけだよ。」


「…そっか…。」



あまりにも犬みたいな目で訴えてくるから…



「…でも、あと1時間あったか。」



「……よしっ。」



……思わず流されてしまった。



「頭痛いんだよね。なら、俺が自分でいれるから……、やり方教えて?」



「………。仕方ないなあ…。分かった。じゃあさ、そこの棚からコーヒー豆とって。」



「…どれ?」



「…茶色の袋。」



「…二つある。」



「…じゃあ、好きな方。」


「…う~ん……。どっちも飲みたい。」


「また今度来ればいいよ。」


「……。そっか。じゃー今日はコレ!」







コーヒー豆を挽く音が…


良い香と共にここまで届いてきた。



私はソファーにぼうっと座ったまま……



晴海くんの真剣な姿に見入っていた。




彼がいれたコーヒーは、私がいれたものよりおいしく感じたのが……


何だかヘンな気がした。





ちょうど1時間後、



「じゃあ、また。お邪魔しました。」




晴海くんは、爽やかな笑顔を残して去っていった。



見送りは、しない。



彼女に誤解されるようなことはしたくはない。




それに、



お隣りさんだから……。







壁ひとつ向こうには、晴海くんがいる。








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