ソラナミダ
残すはあと一軒。



私の部屋の右隣り…。




そもそもここに誰が住んでいるのかも、私は知らない。



一ヶ月前程に越してきたらしいが…


近頃は挨拶回りの習慣はないらしく、今だ名前すら知らない。



生活音すら…


滅多に聞こえてこない。





だから……




恐る恐る、インターホンに手を伸ばした。




ピンポーン……




「………。」




妙な緊張感が私を支配する。



どんな人が住んでいるのだろう。



変な人だったら…



どうしよう。





プッ…



『はい。…どちらさまでしょうか。』



モニターに映る私に不信感を持つような…



低い声。



「あの…、隣りに住んでいる者ですが……。」




「おとなり…。ああ、そうでしたか!平瀬さん…ですね。」



何で名前…知ってるの?



『ご挨拶にも伺わず失礼致しました。私、ここに越してきた【ハルミ】の知人で鷲尾と申します。彼なら今留守ですが…。ええーと…ご要件は?』


『鷲尾』と名乗るその人は、丁寧な口調で、けれどまだ警戒した様子で淡々と応対した。


…ハルミさん。

名字?
名前?


本人じゃない人がいるなんて…。そっちの方が、怪しいよ。


「これを落とさなかったか確認に来ました。」


私はカメラに、ネックレスを翳した。


「…すみません、少々お待ちいただけますか。」




しばらくすると、ゆっくりとドアが開かれた。




「…確かにこれは、ハルミのものです。良かった…。彼、これを探してたんです。でも…よく分かりましたね。」


「そこのエレベーターの前に落ちてたので、ここの階の方みんなに聞いたんです。あとハルミさんだけだったので…。」




< 8 / 335 >

この作品をシェア

pagetop