ソラナミダ
「…ふぅー……。」
私は靴棚の上に鍵をおき…
それから、
「ただいま~」
と、いつものように…挨拶した。
『お。俺も今来たとこ。』
誰もいないソファーに……
彼の幻影を見た気がした。
…駄目だ。こりゃあ重症だ。
私はソファーにドカッと腰を下ろし……
目元を隠して、天を仰いだ。
『ホラ、またすぐ拗ねる。だから言っただろう?』
また…
脳裏に響く声。
もう…
とっくに忘れていたと思ったのに。
「…駄目だ、疲れてんのかな。…目を覚まそう!!」
徐に立ち上がり、キッチンへと向かう。
それから戸棚をあけて……
「…どっちにしようかな。」
……あるものを手にする。
そこで初めて…
はた、と気づく。
手に握られた…、
コーヒー豆の袋。
『…うーん……。どっちも飲みたい。』
……晴海くん。
「…今何時っ!?」
私は慌てて時計を見る。
9時半過ぎ…。
「…ヤバい。」
そう……、
私は…
この、久住による突然の告白に……
すっかり忘れてしまっていたのだ。
約束してたのに……
なのに、いとも簡単に……
忘れていたんだ。
仕事が終わったら連絡するはずだった。
「先約がある」と言って…
久住の誘いを断った。
なのに…
久住が頭から離れない。
気になって気になって…
仕方なかった。
「…行った方が早いか…。」
握っていた携帯電話をテーブルに置き、
私は急いで着替える。
着飾る訳ではない。
晴海くんは…
ありのままの私を知っている。
だからいつものー……
デニムにロングTシャツ。
その上に……
見栄張って買った、ブランドのコートを羽織り…
私は、ブーツを履く。
ざわざわと胸が騒がしかった。
それはこれから起きる…
私の、最低な行動へ対する警告であったことには気づくこともなく。
…玄関を出ようと、ドアに手をかけたその時……