君の初恋だけを

『…ねぇ、

お茶でも飲んでいかない?』


部屋のドアに鍵を差しながら言った声が
思ったよりも頼りなげに響く。


帰ろうとしてた男の子は足を止め、
少し黙ってから、口を開いた。


『…今日はもうご飯作って
待ってるみたいなんで…。』



…そっか、彼女かぁ。



相手は誰でもよかった。



ただ、もうちょっとだけ…

ほんのちょっとだけ
誰かと一緒にいたかった。


今はまだ一人じゃ寂しすぎるから。




『…そうだよね。ごめん。
気を付けて帰ってね!』



そう言ってドアを開けた瞬間に、
玄関に置いてある香水が目に入った。


玄関の横の靴棚に
置いてあるのは彼の香水だった。

出勤前に必ずつけてから
この部屋を出る。



今朝の彼の残り香が
まだ微かに感じられた。



今朝もこの部屋から出て、
”いってきます”って…フツーに……




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