〔完〕 うち、なでしこになるんだから
 さっきは走ることのみ考えてたが、今は何も考えてない。

 嫌なこと、嬉しかったこと、悔しかったこと、悲しかったこと、すべての感情がない。

 感情はおろか視界はぼやけ、頭は真っ白、痛みも呼吸も苦しみも何も感じない。

 なのに、体だけが勝手に家に向かって動く。

 幸いに昼間で、車があまり通ってないからいいが、これでは事故に巻き込まれれてもおかしくない。

 角を曲がって、まっすぐ進んだ先に珠理の家がある。

 角を曲がったら、いきなり全速力で走り始めた。
 スピード緩めることなく、家の前で急停止。

 ドアに鍵はかかってなく、取っ手を引いてドアを開けた。


「ただいま。」

 家の中にはミラン以外誰もいない。

 機械的に靴を脱ぎ、荷物を置いて、手洗いうがい、用意されていたお昼を食べて、二階に行って・・・

 珠理の部屋のベッドに倒れた。

 即深い眠りに落ちた。

 すべてを忘れられたのは、この時だけ。



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