〔完〕 うち、なでしこになるんだから
 珠理の視界の先にあるのは、サッカーボールの絵。

 サッカーのことを思うと、シャーペンが進まない。


――ああ、“日本代表になりたい。”っという文章だ。――

 天井を見上げる。今のは見なかったことにして、もう一回。

 ドリルを見たら、真っ先にサッカーボールの絵、そして選手の絵が目に飛び込んだ。


――ああ、ああ、ああ!!――

 自分は本気で日本代表になりたいんだ。なのに、今、あんな調子。それでも、こんな夢を語っていいのか。

 急に出てきた思いが、珠理の体中をめちゃめちゃにしている。
 限界の先を超して、めちゃめちゃにしている。

 
――こんな夢を持っているから苦しいんだ。
   捨ててしま・・・・・・、嫌だ、捨てたくない。今まで、何のために生きてたことになるのよ!――

 ものすごい勢いで椅子から立ち上がった。
 寝ているミランへ手を伸ばす。あと少しで触れるところで、やめた。

 もう、自分は何をしたいかが分からない。
 そう気づいた直後に、瞼を閉じた。


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