〔完〕 うち、なでしこになるんだから
 八の字にボールを動かしている。先にそう言ったほうが早かったみたい。

 今は地面につかないようにしているが、地面にボールをつけて八の字に転がすこともある。

 珠理のチームでは、ゴールキーパーの練習するときのウォーミングアップでやっているが、小学生の時所属していたサッカーチーム『バンバンFC』では、全員でやってた。

 珠理はその理由を知らない。


 十周したら、反対方向でもう十周。

 終わったら、一回体を起こす。

 ボールを抱えたまま、腰から上を右方向にねじる。
 左方向にねじる。

 肩を大きく回して・・・息を吐く。


 ふとボールに目をやる。

 これは学校のボールだが、なぜか自分のボールに見える。

 珠理のボールと、学校のボールはほとんど似てない。強引に似てるところをあげるとすると、長い間使われていて、ぼろぼろになっているところ。

 ボールを見るたびに思い出がよみがえる。

 たくさんの、思い出が。って、そんな暇はない。

 珠理は、自分で自分を現実に戻す。

 時計を見たら、まだ時間がある。

 少しでも多くのことをしよう。

 
 


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