〔完〕 うち、なでしこになるんだから
 黒板から数えて、一番後ろ。
 廊下から数えて、二番目の列。

 そこが珠理の席。

 座ろうとしたら、目の前にクラスメートの女の子が、輪になってしゃべっている。

「あっ、ごめんね。」

 避けるように、一人の女の子が珠理の前から去った。


「こっちこそ。」

 遠慮なく座る。

 授業まであと二・三分。

 珠理は一分でも早く学校を出て、サッカーがしたいと思っている。

 学校にいる時間より、サッカーしている時間のほうが二倍、いや何倍も楽しい。

 サッカーしていることがばれないように、神経をとがらしている。
 いつでもとがらせているのは、さすがに疲れるから。
 いや、ボールが珠理の大親友だから。


「玉川さんってさ、怖いんだよね。」
「背が高いし・・・。」
「見た目だけじゃないよ。」

 ひそひそ話しているつもりだが、珠理の耳に届いている。

 陰口だ。


 
――女子の世界って、ほんと複雑。

   ってゆーか、あの子陰口好きだな。――

 悲観するどころか、人間観察している。

 人間観察する目を養って、それをプレーに活かそうとしている。


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