〔完〕 うち、なでしこになるんだから
 リフティングとは、サッカーボールを手以外の体の部分を使って、できるだけ地面に落とさないように打ち続けること。

 今は、両足の太ももの中ほどで、ボールを打って、リフティングをいる。


―― 一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、・・・――

 左右交互に、正確に、打ち続けている。

 だいたい同じ高さになるように、打ち続けている。

 このように、安定してボールを打ち続ければ、記録を伸ばすことを伸ばすことができるから。


 そのためか、ボールを見る目は鋭い。少し、眉間にしわが寄っている。

 ボールを打って、心の中で数を数えるのに集中しているからか。

 そのほかのことは、今の珠理の頭の中にはない。

 珠理の髪の毛先が顔に当たっても、その感触を感じない。

 外は梅雨の大雨の雨粒が当たる音すら、聞こえていない。

 それぐらい夢中になって、集中して、ボールを蹴っている。

 もう、誰も邪魔することができない、はず。

 

< 3 / 213 >

この作品をシェア

pagetop