〔完〕 うち、なでしこになるんだから

―― 十、一、二、三、四、五、六、七、八・・・――

 上がっては落ちるボールを、ひたすら見続け、蹴り続ける。

 ほとんど体は動かず、だいたい十センチぐらいの高さでボールを蹴る。

 静かな倉庫だからこそ、ボールを蹴る音が聞こえる。

 いい音に聞こえる。なんだか、心落ち着くような音。

 しかし、蹴っている張本人には聞こえてない。


―― 四十、一、二、三、四、五、六、七、八、九、五十・・・――

 まだ続く。

 珠理のつま先リフティングの最高記録は七十三回。

 珠理にとってこの記録は、いかに自分が下手であるかを示す証拠だと思っている。

 城崎ドルフィンガールズのチームメートは、もっともっとリフティングができる。

 珠理はチームの中では、リフティングができないほうだ。

 だから、もっともっと伸ばしたいと思っている。

 なでしこJAPANになるためには。


―― 六十、一、二、三、四、五、六、七、八、九、七十・・・――

 最高記録まであと少し。

 あと三回。




 
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