〔完〕 うち、なでしこになるんだから
 珠理は、はっと我に返る。

 今ボールが扉に当たったが、もし周りに人がいたら珠理がここに居ることがばれてしまうのではないかっと思ったから。

 結構、体に響く音で、びっくりするはず。

 珠理が集中してても、さすがにわかる。

 

――ちょっと、気を付けないと。――

 しばらく何もしない。

 誰かが来て、開けられては困る。

 つまらない学校生活の中で、唯一楽しみにしてることを取り上げられる可能性が高いから。

 倉庫を開けて、珠理がボール蹴っている姿を見たら。

 開けた人が先生だったら、当然注意される。
 原因を調べ、二度とできないようにする。

 なぜ、珠理が昼休み倉庫に入ってボールを蹴っているか。

 それは、倉庫の壁に床と同じ高さのところから数十センチほどの高さにかけ窓があったが、数年前に窓のガラスが割られ、それ以来サッシが残されたままぽっかりと空いている。

 珠理は勝手に“穴”と呼んでいる。
 “穴”は人に気付かれにくいところにある。
 だから、今までばれずに済んでいる。

 このまま、卒業まで秘密にしたいところだ。


 
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