〔完〕 うち、なでしこになるんだから
 そのあと、やっと剛溜に追いついた。
 でも、それは剛溜が止まってるから。

 ゴールが決まったと改めて確認してから、足を止めた。地面に向かって、

「はぁ、はぁ、剛溜速すぎ。」

 左隣にいる剛溜の反応はない。


「はぁ、スピードでガンガン抜かすんじゃなくて、もっと、頭良く抜かして。」

 やっと顔をあげられた。

「どうやって。」

 剛溜の表情はさっきと変わっていないように見えるが、珠理は今の発言に疑問を持っていると感じた。

 上半身を完全におこし、剛溜と目を合わせて、

「たとえばさ、ドリブルのスピードやリズムをさ、相手や時間帯によって変えるとか。相手と駆け引きしたりとか・・・。
 とにかく、スピードだけに頼るドリブルだと、いつか苦戦するよ。」

「あっそ。」

 剛溜は無口で、無表情で、とっつきにくい。
 さっき、ぶっきら棒な返事をしたが、それでも珠理は彼なりに受け止めていると思っている。
 それに、本気でサッカー学院に入りたいと感じる。

 剛溜の夢も、珠理と同じサッカー日本代表。
 あまり口に言うことはないが、虎視眈々と夢への道を歩んでいる。




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