Wild Rock


 雨は降らなかったが、空は厚い雲に覆われ、季節の変化を継げる雷が都市に轟いていた。

 市民はそんな中でも、マリア様のミサが聞きたくてやってくる。

 刻限に近づく5分前。

 マリア様はあたしの胸に手を翳し、水色の十字架のタトゥを胸に刻んだ。

 もう一つの、東のマリアである聖女の証。

 マリア様はいつもの笑顔で、不安な顔のあたしの頭を撫でてくれた。

 マリア様は教会へのドアを開け、ミサを始めた。


 けど、あたしは院長と控室で待機している。

 なぜかはわからないが、院長も不安な表情になって十字のネックレスを握りしめている。

 小さなあたしでも、その場の空気は読めるし、何より『聞こえる耳』を持っているから、院長が何かに怯えているのがわかる。

「シスター=ベルテ。何であたし達だけがここにいなきゃならないの?」

 振り返らずに言うと、院長は何も言わなかった。

 パイプオルガンの音が響き、マリア様率いる聖歌隊の歌が始まった。


 市民の、悲鳴とともに…。



 
< 195 / 251 >

この作品をシェア

pagetop