Wild Rock
異端なる青年~ファブニルの過去編~
ざわつくギャラリーを背に、マリアのオシオキが炸裂した。
ムチをしまい、再びタバコに火を点け紫煙を吐く。
マヌケ顔の三人がいると思いきや、内一人が忽然と姿を消していた。
「大丈夫か? 俺はフェンリル。仕事いつ終わる?」
ふと視線を店に移すと、案の定フェンリルが先程絡まれていたウエイトレスを口説いている。
「えっと、あの、キャッ!?」
急に驚いた声をあげたのは、マリアがフェンリルの頭をヒールで踏み付けたからだ。
「このバカウルフ。女口説いてる暇あるなら宿探しやがれ」
「ごめんなさいね。ツレが失礼なことして…」
ファブニルはウエイトレスを見て目を丸くしていた。
茶色のふわふわの髪をツインテールにし、瞳はルビーのような美しい赤。
まるで女版のファブニルのようだった。
「フォ…ボス…?」
こぼした小さな言葉を、マリアは聞き逃さなかった。
ファブニルを後方に下げ、今度はマリアが話しかけた。
「あんた、名前は?」
「え。アテナです」
その名を聞き、ファブニルは我に返った。
あの子がこんな所にいるはずがないのに、と、思いながら。