ありきたりな恋
3.涙色のクリスマス・イヴ
卒業から三ヶ月近く前のクリスマス・イヴ。
世間はクリスマスムード一色だった。
その日は内部進学組は「高校最後のクリスマス」ということでカップルたちはラブラブな雰囲気で。
外部進学希望者はピリピリした空気を漂わせていた。
「お前ら、今日で二学期最後だからと言って、あまり羽目外すなよ」
二学期最後でもあるこの日、羽柴先生の一声で解散となった教室で、私はぼんやりとして外を眺めていた。
「・・・佐伯」
「うわっ」
突然、顔を覗き込まれ、驚いた私は、思わず声を上げた。
「みんな帰ったぞ」
「あっ、えっ」
「何ぼんやりしてるんだ。お前だけ進路希望出してないぞ。お前なら推薦でも一般でも結構いい大学入れるよな」
先生が出席簿で軽く私の頭を叩くと、向かいに腰かけた。
「確か、医学部希望だよな。実家の病院を継ぐのか?」
「いえ、それは兄に任せます。私は、子供のころからなりたい職業があって」
机の上に置いてあった進路希望表に第一希望、第二希望、それぞれの大学名と学部を書くと、先生に渡した。
「横坂大学医学部保健学科と北条医科大学保健学科?」
「養護教員になりたいんです。保健の先生って憧れなんですよね。それに保健婦の資格を取っとけば、実家も多少手伝えるし」
私の実家は小さな町医者をやっている。
ひいじいちゃんの時代からだから結構歴史が古く、父は内科、叔父は外科、母は小児科と一家で頑張っている。ちなみに私の兄も現在、うちの近くにある横坂大学医学部4年生で、内科医を目指して勉強中。2歳上の従兄も同じ大学で外科医を目指して勉強中という医者の家系だ。
「お前なら合格圏だな」
そう言って、私の頭をくしゃくしゃにすると、先生は立ち上がった。
「外部進学を選ぶとは思ったが、少し寂しくなるな」
「えっ?」
その言葉に胸が高鳴った。
いつも茶化してばかりの先生の表情が少し寂しげで。
なんだかいつもと雰囲気が違っていた。
「あの、先生、私・・・・」
まっすぐ先生を見つめ、想いを伝えようとした瞬間、タイミング良く、ドアが開いた。
「いた、羽柴先生。ちょっといいかしら?」
隣のクラス担任の小泉先生が羽柴先生を呼び出す。
「あっ、今行きます」
じゃあ、またな。という言葉を残して先生が立ち去ると、私は息を吐いた。
「危なかった」
言いかけた言葉をそのまま封印すると、私も教室から出た。
人気のない廊下を歩いて、ふと国語準備室の扉が開いていることに気付いた。
隣のクラス担任を務める小泉先生は、古文の担当でもあるため、この部屋を使う。
この日も当たり前のように国語準備室にいたけど、それだけではなかった。
「ねえ、羽柴先生。椎野さんといい雰囲気だったわね」
「よしてください、あいつは生徒です。・・・・オレはお前のこと、生徒としか思えない。生徒としか見れないですよ」
「卒業しても?」
「ええ」
「良かった」
ほっとした笑顔で小泉先生は、まっすぐ羽柴先生を見つめると、抱きついた。
「あたし、先生のことが好きなの。年上は嫌い?」
大人の女性のカノジョが、私に気付くと不敵に笑った。
(あんたみたいなおこちゃまは出る幕がないのよ)
口にはしていない言葉が、脳裏に響く。
私はいたたまれなくなり、その場を離れた。
・・・・・・その日を境に、私は第一志望を難関だと言われている京都の西京学院大学に変更し、無我夢中で勉強して合格した。
卒業から三ヶ月近く前のクリスマス・イヴ。
世間はクリスマスムード一色だった。
その日は内部進学組は「高校最後のクリスマス」ということでカップルたちはラブラブな雰囲気で。
外部進学希望者はピリピリした空気を漂わせていた。
「お前ら、今日で二学期最後だからと言って、あまり羽目外すなよ」
二学期最後でもあるこの日、羽柴先生の一声で解散となった教室で、私はぼんやりとして外を眺めていた。
「・・・佐伯」
「うわっ」
突然、顔を覗き込まれ、驚いた私は、思わず声を上げた。
「みんな帰ったぞ」
「あっ、えっ」
「何ぼんやりしてるんだ。お前だけ進路希望出してないぞ。お前なら推薦でも一般でも結構いい大学入れるよな」
先生が出席簿で軽く私の頭を叩くと、向かいに腰かけた。
「確か、医学部希望だよな。実家の病院を継ぐのか?」
「いえ、それは兄に任せます。私は、子供のころからなりたい職業があって」
机の上に置いてあった進路希望表に第一希望、第二希望、それぞれの大学名と学部を書くと、先生に渡した。
「横坂大学医学部保健学科と北条医科大学保健学科?」
「養護教員になりたいんです。保健の先生って憧れなんですよね。それに保健婦の資格を取っとけば、実家も多少手伝えるし」
私の実家は小さな町医者をやっている。
ひいじいちゃんの時代からだから結構歴史が古く、父は内科、叔父は外科、母は小児科と一家で頑張っている。ちなみに私の兄も現在、うちの近くにある横坂大学医学部4年生で、内科医を目指して勉強中。2歳上の従兄も同じ大学で外科医を目指して勉強中という医者の家系だ。
「お前なら合格圏だな」
そう言って、私の頭をくしゃくしゃにすると、先生は立ち上がった。
「外部進学を選ぶとは思ったが、少し寂しくなるな」
「えっ?」
その言葉に胸が高鳴った。
いつも茶化してばかりの先生の表情が少し寂しげで。
なんだかいつもと雰囲気が違っていた。
「あの、先生、私・・・・」
まっすぐ先生を見つめ、想いを伝えようとした瞬間、タイミング良く、ドアが開いた。
「いた、羽柴先生。ちょっといいかしら?」
隣のクラス担任の小泉先生が羽柴先生を呼び出す。
「あっ、今行きます」
じゃあ、またな。という言葉を残して先生が立ち去ると、私は息を吐いた。
「危なかった」
言いかけた言葉をそのまま封印すると、私も教室から出た。
人気のない廊下を歩いて、ふと国語準備室の扉が開いていることに気付いた。
隣のクラス担任を務める小泉先生は、古文の担当でもあるため、この部屋を使う。
この日も当たり前のように国語準備室にいたけど、それだけではなかった。
「ねえ、羽柴先生。椎野さんといい雰囲気だったわね」
「よしてください、あいつは生徒です。・・・・オレはお前のこと、生徒としか思えない。生徒としか見れないですよ」
「卒業しても?」
「ええ」
「良かった」
ほっとした笑顔で小泉先生は、まっすぐ羽柴先生を見つめると、抱きついた。
「あたし、先生のことが好きなの。年上は嫌い?」
大人の女性のカノジョが、私に気付くと不敵に笑った。
(あんたみたいなおこちゃまは出る幕がないのよ)
口にはしていない言葉が、脳裏に響く。
私はいたたまれなくなり、その場を離れた。
・・・・・・その日を境に、私は第一志望を難関だと言われている京都の西京学院大学に変更し、無我夢中で勉強して合格した。