恋なんてミステリアス
 窓際の席からボンヤリと雲の軟らかそうな布団を見下ろしながら真理恵はどのような雰囲気で親と顔を合わせようかと考えた。空港に迎えに来ると母は言ったが、わざわざ面倒臭いだろうと断ってみたりもした。しかし、そんな事は無いと母に言われ、最終的には到着したら電話する事で決着した格好となった。久しぶりに見る娘に母はどんな顔を見せるだろうか。暫らく帰って来ない娘に淋しい思いをしてたのだろうか?つまらぬ恋にうつつを抜かし、家族に会うことよりも男と一緒にいる事を選択した私。今更ではあるが、肩身が狭い思いはこれで最後にしよう。
 飛行機は大分上空から熊本へと入った。懐かしい土地が眼下に広がると、真理恵の胸は子供のような高鳴りを覚えた。以前、当たり前のように通っていた道路を探すが思うように見つからない。窓ガラスに額を当てみたが、方向すら定かでは無い状況ではこれ以上は無理だろう。真理恵は諦め半分でシ―トに背中を預けた。着陸態勢に入ると飛行機が右へ左へと細かく揺れ、経験が浅いパイロットが操縦してるのか、または強風が吹いてるのか、そんな事を考えた。一応、無事に到着したので、それも今ではどうでも良いことなのだが。

 タ―ミナルビルに入るとすぐに携帯の電源を入れ、画面に母の番号を呼び出そうとした。 
「あれ?」
 着信有りの表示だ。誰だろうと思いながら確認すると母からであった。それも三回もである。着信時間は、定刻の到着予定時間から五分後で、その後も五分刻みで二度掛けて来ている。それで私の気持ちは幾分が救われ、昔のような感じで電話を掛け直すことが出来た。
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