恋なんてミステリアス
 同窓会の会場は近くの焼肉屋である。酒が入る事と皆地元である事を考慮すると妥当な選択であろう。 
 前日の夜、母は車で送ろうかと言ったが、歩いても10分以内で着くだろう。真理恵は、たまには近所を歩いてみるかという衝動にかられ丁寧に断った。 
 この季節、午後6時は夕方なのか夜なのか、ハッキリとしない薄い闇の中を歩くと、次第にバイパスの灯りが道しるべとなり、そして様々な色を照らすネオンが暗い空を染めようとしていた。

 焼肉屋に着くと店員に幸子の名前を伝えた。店員は奥の座敷に案内すると、「こちらになります」と言って引き返していった。 
 中からザワザワとした話し声が漏れている。その声に緊張を感じ、襖を開くタイミングが難しくなった。今思えば、誰が参加するのかを聞いておくべきだったと後悔した。それでもここまで来たのだから引き返すという選択肢は無い。真理恵は、音を立てないようにそっと襖を小さく開いた。その途端、部屋の中の顔達が一斉にこっちを向き、真理恵は慌てて見覚えのある顔が無いかを探した。  「遅刻だよ、真理恵」   誰かが叫ぶと皆が笑った。真理恵は、声の主を捜し当てた。するとそれはあの幸子なのであった。
 真理恵は手招きをされるままに幸子の隣に座ると、幸子は真理恵のコップにビールを溢れんばかりに注いだ。 
「久しぶりだね、ま―ちゃん」 
 そう言って私の顔を覗いてくる顔は、あの時の幸子とは思えぬ冷たさを秘めているように感じた。 
「ええ、久しぶりだね」
 私は咄嗟にそう答えたが、周りを見渡すと仲の良かった顔は一つも無かった。私は、幸子のほうに向き直ると、この同窓会はいつのものであるかを問うた。 「ああ、これね。これは私の高校の時の友達連中なの。だから、あなたが知らないなも無理は無いよ」
 真理恵は、意味が分からなかった。 
「中学の同窓会じゃないの?確かにそう書いてあったから参加したんだけど」
 幸子は含み笑いを返してきた。 
「そうとでも書かないと、あなたは来ないでしょ?」「あんた、何言ってるの?それって、私を呼び出したってこと?いったいどうして・・・」
「まあ、そう慌てないでよ。久しぶりなんだから先ずは呑みましょう」
「いや、説明して」
 真理恵の大声に皆が驚いた顔で振り向いた。 
「ほらほら、皆ビックリしてるじゃないの。少しは落ち着きなさいよ」 
 幸子の妙に低いト―ンで真理恵の興奮は冷め気味となったが、イライラ感と不安が入り乱れ、そうなると次第にそれは恐怖さえ覚えるものへと変化した。しかし、わざわざ手の込んだ事までした理由は知りたい。真理恵は、取り敢えずは幸子のペースに合わせることにし、一杯目のビールを乾いた喉に放り込んだ。
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