恋なんてミステリアス
「ねえ、あんた誰?」   軽そうな男が人を値踏みするかのように聞いてきた。私は愛想笑いだけで受け流して答えなかった。すると、もう一度同じことを聞かれた。  
「私の友達だよ。親密な話をしてるんだから茶々入れないでよね」
 幸子がタンカを切ると、男は舌打ちをし背中を向けた。
 真理恵は、怖い連中の集まりの中に入り込んでしまったのではないかと心配になり、幸子に早く用件を言うように急かした。幸子は仕方ないという様子であきれ顔を見せた。 
「あんた、倉本真司って知ってるよね?」
 幸子が倉本を知ってる。いや、そんなはずは無い。熊本と東京という離れた土地で、そんなことは有り得ない。
「知ってるよね?」
 口をつぐんだ真理恵に幸子が念を押してきた。真理恵は、事の真相を得るには正直に答えるしかないと考えた。 
「知ってるけど、それがどうかしたの?」
 それを聞いて幸子はフンッと鼻を鳴らした。 
「あんたと倉本は、どういう関係だったの?この場に及んで隠し事は無しでね」「別に隠す必要なんて無いけど。私達が付き合ってたからって、それがあなたに何の関係も無いでしょうに」  
 幸子は、真理恵のコップにビールを注いだ後、自分のコップにも満杯に注いだ。 
「そうそう。あんたまだ知らなかったよね。私、結婚してたの」
 父が言ってた話だ。その後、離婚したって事だけど、それを私の口からは言わないほうが無難だ。真理恵は初耳だという素振りをした。 
「そうだよね。知らないよね。ましてや、あれからあんたとは何の接点も無かったし、私との記憶も何も既に消え去ってしまった遠い昔の話だもの。そう言えば、私ね、結婚してた時は東京住まいだったのよ」 
 真理恵は嫌な予感がした。
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