恋なんてミステリアス
「男一人で寿司か・・・」 真理恵は聞こえないように呟いた。 
 暫くすると、男はモニターに手を伸ばしたが、いつまでも注文せずに、画面を捲ったら戻しを繰り返しては、じ―っと見つめていた。隣でそんな不思議な行動を取られたら、こっちまでイライラしてしょうが無い。真理恵は、我慢出来ずに男に聞いた。 
「あのう、余計な事かも知れませんが、何を困ってるんですか?」
 男は、ハッとした表情でこっちを見た。  
「初めて来てみたのですが、皆さんこれでも注文されてるみたいなので、自分も食べたいものだけ注文しようとしてたんですが、どうもやり方が分からなくて」 回転寿司初体験か。この男、そんなおぼっちゃまには見えないが、まあ、そんな事はどうでも良い。真理恵は、丁寧に教えながら、モニターで注文を取ってあげた。男は、少しだけ表情を緩めてお礼を言ったが、内心は相当嬉しかったのではないのかと真理恵は想像したりした。 
 真理恵の炙りが到着した。男はそれを見ると、教えて貰ったばかりのモニターでまた注文した。すると、比較的早くその品が届き、男は、先程のお礼だと言って、価格の高い一貫皿の炙りを二皿真理恵の前に置いた。真理恵は驚いた。まさか、この能面みたいな顔の下でこんな事を考えてたなんて。しかし、真理恵は皿を押し返すことはしなかった。他人の善意は有り難く受け取るべきで、相手の立場を尊重するのがお互いに喜ばしいことだと思ったからである。
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