恋なんてミステリアス
 街は華やかな色と音と形を絶やすことなく繰り広げていた。
 見舞いに行って病気の話もせずに帰ってきたことを後悔しつつ、それでも足は規則的に並べられた石畳の上を進むしかなかった。 
「なんだかなあ・・・」

 不意を突いて出る言葉に気持ちは更に重くなるばかりで、これからどうしようかと考えても、これといって名案など浮かぶはずも無いことは自分でも分かり切っている。それでも、このまま帰宅の途につくには余りにも虚し過ぎる。

 ガラス張りのショップに並ぶブランドのバッグ。照明に照らされ浮かび上がる貴女たちは、まるで買い手を求める娼婦のようね。真理恵は、そこに並ぶ一つ一つの顔を入念に見ると、彼女達に手を振りその場を立ち去った。

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