クールな彼が好きすぎて困るんですが!!


一列に並んだ的の前。

その的と向かい合うように立っている人達の中には、山田くんの姿は無い。



「ちょっと、静かにしてもらえませんか。選手が動揺するでしょう」


「あっ…すみません」



入り口近くに立っていた相手校のマネージャーと思われる女の子に睨まれ、あたしはさっきまでの勢いなんてすっかり無くしてしまった。


縮こまるように体を小さくし、小走りで奥へと進んだ。


……と、部室に見えた一人の影。



「…山田くん!」



思わず声が出てしまい、また女の子に睨まれたけどそれどころじゃなかった。


部室の中のイスに座り、俯く山田くんの左手に巻かれた包帯が、うっすらと赤くなっていたからだ。



「山田くん、大丈夫!?」


「…え、あんた何でいんの?」



驚いた表情をする山田くんをスルーして、ケガした左手を掴んだ。



「っつ……」


「あっごめんね!?痛かった!?」


「…いや、大丈夫」



包帯はうっすらと赤くなっていて、血が滲んでいることを物語る。


松川くんが、深く切ったって言ってた。

こんなケガしてまで、止めないなんて……。



「…何で、あんたが泣くの」


「ごめっ…ごめ、ね…っ山田く…」


「…泣かないでよ。ていうか、泣くな」



そう言って、山田くんは空いてる右手であたしの頭を撫でた。


その手が優しくて、温かくて、余計に涙が溢れる。


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