クールな彼が好きすぎて困るんですが!!
「山田聖さん?次、お願いします」
「あ、はい」
相手校のマネが、ドアの所からそう声をかけた。
山田くんは立ち上がり、弓を手にする。
「ま、待って山田くん!」
「…何?」
「そのケガでやるの?ダメだよ!」
「…大丈夫。ここで止めるなんてプライドが許さないから」
驚いた。
山田くんの口から、プライドなんて言葉が出てくるなんて。
いつもは、自分の胸の内に秘めているタイプなのに。
それくらい、山田くんは弓道に信念を持っているんだ。
ケガの一つくらいで、簡単に途切れるような生半可な思いじゃなくて。
……だって、ほら。
まるで何かが乗り移ったみたいに、纏う空気が変わった。
「…わかった。でも、無理しないでね」
「…ん。ありがとう」
ぽんぽん、と頭を撫で、柔く微笑むと部室を出て行った。
その後ろ姿を見送り、後を追うようにあたしも部室を出る。
と、すぐそこに香里奈ちゃんが立っていた。
「…香里奈ちゃん」
「見てください。ここ、腫れてるんですけど」
そう言って、香里奈ちゃんは自分の左頬を指差した。
確かに、ほんのり赤くなり幾分腫れている。
でも、あたしは謝らない。
「…人をこけにした罰だよ」
「フンッ。はっきり言いますね」
香里奈ちゃんは腕を組み、壁に寄りかかって真っ直ぐに的を見つめる。
視線の先には、同じように的を見据える山田くんの横顔があった。