クールな彼が好きすぎて困るんですが!!


「山田聖さん?次、お願いします」


「あ、はい」



相手校のマネが、ドアの所からそう声をかけた。

山田くんは立ち上がり、弓を手にする。



「ま、待って山田くん!」


「…何?」


「そのケガでやるの?ダメだよ!」


「…大丈夫。ここで止めるなんてプライドが許さないから」



驚いた。

山田くんの口から、プライドなんて言葉が出てくるなんて。

いつもは、自分の胸の内に秘めているタイプなのに。


それくらい、山田くんは弓道に信念を持っているんだ。


ケガの一つくらいで、簡単に途切れるような生半可な思いじゃなくて。


……だって、ほら。

まるで何かが乗り移ったみたいに、纏う空気が変わった。




「…わかった。でも、無理しないでね」


「…ん。ありがとう」



ぽんぽん、と頭を撫で、柔く微笑むと部室を出て行った。

その後ろ姿を見送り、後を追うようにあたしも部室を出る。


と、すぐそこに香里奈ちゃんが立っていた。



「…香里奈ちゃん」


「見てください。ここ、腫れてるんですけど」



そう言って、香里奈ちゃんは自分の左頬を指差した。

確かに、ほんのり赤くなり幾分腫れている。

でも、あたしは謝らない。



「…人をこけにした罰だよ」


「フンッ。はっきり言いますね」



香里奈ちゃんは腕を組み、壁に寄りかかって真っ直ぐに的を見つめる。


視線の先には、同じように的を見据える山田くんの横顔があった。


< 346 / 401 >

この作品をシェア

pagetop