クールな彼が好きすぎて困るんですが!!
香里奈ちゃんはそう言って、初めて、緩んだ女の子の笑顔を見せてくれた。
……嬉しかった。
素直に、嬉しかったんだ。
「…って、何で柚希さんが泣くんですか」
「香里奈ちゃんが笑ってくれたから嬉しくて…」
「はぁっ?あなた、本気でバカですね」
「ヒドッ!」
「ほら、泣いてたらせっかくの山田先輩が見れませんよ?彼女なら、見ててあげてください」
ほんと、どっちにハンカチ必要なんだか。
そうボヤいて、あははっと笑った香里奈ちゃん。
…なんか、情けないッス……。
「次、山田聖」
「…はい」
名前を呼ばれ返事をすると、静かに息を吐き出し、そっと閉じていた目を開いて的を見据えた。
その瞳は、どこまでも澄んでいて。
どこまでも、生気に満ち溢れていた。
――――ドキンッ。
山田くんが立ち上がり、的の前に立つ。
弓道は、人の心が矢として表れる競技。
迷いや躊躇いは、すぐに感じ取れるものだ。
……でも、そんなもの、今の山田くんには微塵も無かった。
ゆっくりと弓を引き、的を見つめる。
弓のしなる音。
呼吸の一つ一つが響くほど、静まり返った空間。
静寂の場に、矢が空気を切り裂く音だけが響いた。
「…中り!」
ワァッと歓声が上がり、山田くんがふっと息を吐き出す。
山田くんの放った矢は、見事、的の中心を捉えたのだった。