Level 36.
5. あの、雨の日
卓上に並べられた料理。
それらを一口一口、大切そうに幸せそうに食べている悠希を見ている内に
柴田はなぜか、悠希が面接に来た日の事を思い出していた。
―――――
数人の応募者の中、悠希の面接が1番目だった。
残りの面接では経験者も即戦力を期待出来る人材もいたが
すべての面接に同席させている主任ナースの原田に悠希の採用決定を告げて
いいナースになるだろうから育ててやってくれるかと聞いた時には
「院長は篠原さんの面接を終えた時、すでに採用を決めていたでしょ?」
わかっていましたよ。と頼もしい反応を示した。
彼女もまた悠希に何かを期待している様で入職後の教育は厳しく、温かかった。
そして悠希も見事に応えてくれた。
処置室での遣り取りは医師に聞こえていないと思っている患者が
往々にして新顔の看護師に少々の意地悪を言う事もあるが
実はそれらの会話の殆どは聞こえていて
どんな応対をするのかと、当初は診察しながら耳を立てていた。
言葉遣いは丁寧で、治療の説明の時にも難しい専門用語あまり使わずに
わかりやすいように話している。
慣れない注射で失敗する事もあるが、その後のケアもきちんと出来ていて
とても新卒とは思えない落ち着きに感心さえさせられた。
様々な病気についてよく勉強し、わからない事は素直に質問する。
半年も経つ頃には院内全般の業務を難なくこなせるようになり
今では一人前以上の仕事ぶりと存在感となっていた。
―――ホント、よく頑張ったな。