Level 36.
「……まぁ、そんなところです」
ほんの一瞬、ふっと曇らせた瞳はすぐに元の色に戻っているが
悠希をじっと見つめていた柴田は、微かな変化も拾っていた。
「お前、まだ……」
そこまで言った柴田はハッとして口を噤んだ。
「ま、まさか!
もう2年も前ですよ? 彼の事なんて何とも思ってません」
柴田の口をついて出掛けた言葉は、約2年前の出来事。
『彼』と別れた直後の悠希に遭遇していた。
静かに降り出した雨の中、天を仰いで立ち尽くす美しい女。
偶然通った道で車の中から見かけた光景―――。
というにはあまりにも切なくて見過ごせず
気が付いた時には車を路肩に停め、傘を握りしめて駆け寄っていた。
霧雨がかき消してしまいそうな儚い後姿に傘を差し掛けると
静かに振り向いたのは―――。
まるで空虚を映したような瞳の、悠希だった。