キミの前に夕焼け



「水樹くん、よくこのスーパー来るの?」



「うち、親が共働きだから。
ご飯作るのは俺の役目なんだ」



「そう…だったんだ」




知らなかった。

水樹くんの家の事情とか、そんな深いところまでは知らなくて。

大変なんだな……。




「すごいね……自分でご飯、作れるなんて」



「そんなことないよ」




ザアザアと、雨の音がする。

傘に強く吹き付ける雨を弾く音。


湿った、雨の匂い。




トン、と触れた腕に、ビクッと過剰に反応してしまう。




「……あっ、」


「……ご、めん。

俺と相合傘とか嫌だった?」





今日初めて、真っ直ぐに見た水樹くんの顔。


眉を下げて、無理して笑うその表情は、泣きそうで。



しまった、って、思った時には遅かった。




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