キミの前に夕焼け
「違うの、ごめ……」
「俺の家すぐそこだから、使って」
謝ろうとした言葉を遮って、渡されたビニール傘。
そのまま雨の中を濡れて走っていく水樹くんの背中に、何も言えなくて。
慌てて追いかけようとしても、水樹くんの足の速さには追いつけなくて。
暗くなってきた雨の道を走る、水樹くんの髪も服も濡れて。
ビニール傘をぎゅっと握りしめた。
「……最低だ、あたし」
水樹くんの家が、スーパーからそんなに近くないことも知ってるのに。
水樹くんだって、あたしの家の方がスーパーから近いことは知ってるはずなのに。
それなのにあたしに貸してくれた傘は、水樹くんの優しさで。
その優しさを踏みにじったのは、あたしの自分勝手な罪悪感で。