キミの前に夕焼け




雨の音は次第に強くなって、傘をさしていてもあたしの足元を濡らす。



「ごめんね……水樹くん」





小さく呟いたそんな言葉は雨音にかき消されて、そうでなくても水樹くんに届くはずもない。



前も、危ないからってスーパーの帰りに送ってくれた。


あたしが颯くんと喧嘩した時も、水樹くんが一緒に帰ってくれた。


今日だって、水樹くんはいつも通り優しくしてくれたのに……。




きっと、相手があたしじゃなくたって水樹くんは傘に入れてくれた。


桃だって、七瀬ちゃんだって、颯くんだって、水樹くんはきっと家まで送ってあげる。



その親切に勝手に意味を付けて、勝手に悩んで。



だってもう、どうしたらいいのか分からなくて。




颯くん以外に告白されたことなんてなかったから。


だから、あんな話を聞いたこともなくて。


誰かが自分を好きかもしれないなんて、意識したことすら初めてで。




でも、これは、きっと1番やっちゃいけないことだった。







< 262 / 298 >

この作品をシェア

pagetop