キミの前に夕焼け
雨の音は次第に強くなって、傘をさしていてもあたしの足元を濡らす。
「ごめんね……水樹くん」
小さく呟いたそんな言葉は雨音にかき消されて、そうでなくても水樹くんに届くはずもない。
前も、危ないからってスーパーの帰りに送ってくれた。
あたしが颯くんと喧嘩した時も、水樹くんが一緒に帰ってくれた。
今日だって、水樹くんはいつも通り優しくしてくれたのに……。
きっと、相手があたしじゃなくたって水樹くんは傘に入れてくれた。
桃だって、七瀬ちゃんだって、颯くんだって、水樹くんはきっと家まで送ってあげる。
その親切に勝手に意味を付けて、勝手に悩んで。
だってもう、どうしたらいいのか分からなくて。
颯くん以外に告白されたことなんてなかったから。
だから、あんな話を聞いたこともなくて。
誰かが自分を好きかもしれないなんて、意識したことすら初めてで。
でも、これは、きっと1番やっちゃいけないことだった。