キミの前に夕焼け



ゆっくりと紡がれる水樹くんの言葉は、じんわりと優しく、あたしの心に広がる。





「俺さ、小学校まで仲のいい友達がいなかったんだよね」


「え……?」



「王子、なんて呼ばれてて、みんなと話したりはするけど、特別仲のいい人はいなくて。

家に帰ってもひとりで、本当に信じられる人なんていなかったと思う」




王子。

それはみんなから好かれてるからこそついたあだ名で、だけど人とは少し距離をとって。


水樹くんはいつもニコニコして、親しみやすいようで、実はなかなか心を開いてくれない。


そんな印象は、確かにあったかもしれない。




「そんな俺の中に入り込んできてくれたのが、颯とレンレンだった。

バスケはもちろん好きだけど、骨折した時もバスケができないのが辛いんじゃなくて……


最後の大会に、みんなと出られないかもしれないのが一番怖かった」






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