牙龍−元姫−
いま思えばあの鍵を壊したって何の支障もなかったはず。



立ち入り禁止とは学校側が決めた"規則"だと思ってた。



でも本当は彼等が屋上を頻繁に利用するために決められた"無言の規則"だった。







『屋上?何かようでもあるの?』

『ないけど…屋上入ってみたくない?』

『全く。屋上なんて近づこうとも思わないわよ……アンタまさか』

『はっ、入らないよ』

『あらそう。なら良いわ。変な気おこして入ろうなんて考えんじゃないわよ?』




屋上の鍵を壊す前日の会話。


私は里桜の忠告を破り、入ってしまった。


私には里桜の言葉に含まれる深い意味を理解していなかった。牙龍の敷居を跨ぐことは、それ相応の覚悟がいるからだ。




しかし馬鹿な私は牙龍の敷居を跨いだことにすら気づいていない。


ただ学校の物を壊した罪悪感と、バラされたらどうしようという焦り。








―――――なぜこんな条件を出されたのか意味が分からなかった。

これを弱味に私をパシりにだってコキ使うことだって出来たはず。なのに――――……………







『バラされたくなかったら牙龍の姫になれ』

『………は?』

『答えは"イエス"か"はい"だけだ』




彼らが私に姫になれという条件を叩きつけた。


こうして訳もわからず、私は姫になった。そのときはそれしか選択肢がなかったから飽く迄義務的な強制。
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