牙龍−元姫−




「……っじゃあね」




私は空気に堪えられなくなって立ち上がり屋上を去ろうとした。



ここから早く逃げ出したい。正確に言えば戒吏からだけど―――…



挙動不審な態度かも知れないけど"早く、早く"と頭が警告を鳴らす。早く此処から去れと。気持ちばかりが焦る。









「――――え」



私は前に進めた足を止めた。進めなくなったから。





だって、




―――……戒吏が私の手首を握ってるから。



どうして?
どうして引き留めるの?



ねえ、戒吏―――……









「此処にいろよ」



そよ風が私達を包む。
青空が私達に覆い被さる。

スカートがひらひら舞い髪がたなびく。

私の手首を滑る手の体温。交わる瞳から訴えられる何か。瞳を逸らす事も出来ず手も振りほどけない。

全てを支配される。





ドクン


――‥ドクンッ


早まる鼓動は私を苦しませる





< 117 / 776 >

この作品をシェア

pagetop