牙龍−元姫−
「……っじゃあね」
私は空気に堪えられなくなって立ち上がり屋上を去ろうとした。
ここから早く逃げ出したい。正確に言えば戒吏からだけど―――…
挙動不審な態度かも知れないけど"早く、早く"と頭が警告を鳴らす。早く此処から去れと。気持ちばかりが焦る。
「――――え」
私は前に進めた足を止めた。進めなくなったから。
だって、
―――……戒吏が私の手首を握ってるから。
どうして?
どうして引き留めるの?
ねえ、戒吏―――……
「此処にいろよ」
そよ風が私達を包む。
青空が私達に覆い被さる。
スカートがひらひら舞い髪がたなびく。
私の手首を滑る手の体温。交わる瞳から訴えられる何か。瞳を逸らす事も出来ず手も振りほどけない。
全てを支配される。
ドクン
――‥ドクンッ
早まる鼓動は私を苦しませる