牙龍−元姫−







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知らぬ間に私は屋上のベンチに逆戻りしていた。隣には戒吏。





―――――沈黙





いつもなら嫌う沈黙も今はこの沈黙に救われている。何かを聞かれるより楽だから。一体何れ程この沈黙が続いているんだろう…









「……おい」




沈黙を壊したのは戒吏。私から話しかけようとは思わなかったので戒吏がこの沈黙を壊すことは必然的。


待ち構えてはいたけどいざとなると、胸が張り裂けそうなくらい緊張している。


気を緩めれば口から何か出そう。





「…な、なに?」

「アイツは誰だ」





アイツ?ジッと見つめてくる戒吏に私は首を傾げる。そんな私に少し云うのを躊躇う戒吏に私はまた首を傾げる。



…誰の事だろ?アイツって。







「……前に一緒にいた奴」




―――――前?と訪ねると戒吏はドーナツ店の事の話をした。




「あ、千秋のこと…?」

「誰だ」

「誰って…」



それがどうしたの?と思うが戒吏は私から目を逸らさない。故に私も戒吏から目を逸らせない。
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