牙龍−元姫−
逃げる猫ね……否定は出来ない。確か私は逃げる事にも意味があるって自分を正当化させてるから。
自分は正しい、間違っていない。
………そう思わないと自我を保てないのかもしれない。
私は自分を可哀想なんて思ったことはない。だけど、思考が可哀想だと思ったことはある。
こんな考えしか出来ない。
こんな想いしか抱けない。
なんて醜く哀れなんだろうって…
――――――いまだって、ほら。
屋上から出ようと歩き始めた足。あくまで自分の為に。
いつもそう。人の事なんて考えない私。だって戒吏の気持ちなんて私に分かるわけないよね?
矛盾。
心はわかっているのに、行動とは何故か矛盾する。
私は扉の取っ手に手を掛ける。澄み渡る青空に程よいそよ風。広い屋上。誰もいない屋上。
二人だけの、屋上。
皮肉なことに遠くとも声は、よく響く。
「もう会うこともないだろうけど」
ドアをゆっくりと押す、
「――――バイバイ」
スローモーションのよう。
ゆっくりと脚を進め、完全に脚が出たところで
―――――バタン
空間が閉ざされた。
仕切りはたった一枚の扉
されど重く頑丈な一枚の壁
二人の間に大きくそびえ立つ壁は決して揺らがない。こんなにも距離は近いのにの想いは遠い。
何を想い 何を感じるかは
己しか知らない
扉を開閉は自由
あとは一歩を踏み出す勇気
でもいまは鍵が掛かっているのか硬く閉ざされたまま
‥‥――――理解しあえるには、まだ早い