牙龍−元姫−
寂しいなんて餓鬼クセえ。

でも確かに、アノときと一緒だ。


















――――――――俺は響子のヒーローにはなれない。


寧ろ俺は好きな子の幸せを願うことが出来なかった悪役なんだ。







俺は女が嫌いだ。嫌いだったはずなのに――――――響子に出会って俺の世界が百八十度回転した。



何度、偶然を装って声を掛けようと思ったか。嫌いな女に声を掛けようとする自分を受け入れられなかった。しかし身体は心とは裏腹に動く。だけど声をかける僅かな勇気さえない俺。



自分がこんなにも奥手だった事に驚いた。眼が合うだけで、もどかしく今すぐに走り去りたい衝動に駈られる。



でも華みたいな笑顔がみたくて、あの鈴の鳴るような声が聞きたくて常に響子の傍にいた。



その度に、戒吏に睨まれ遼太に蹴られ蒼衣に弄られ―――――――こんなにも響子は愛されているんだと感じ取れた。



俺は俺に驚いた。初めはこんな訳の分からない気持ちを受け入れられなかった。でも、理解した後は意外とすんなりと心に馴染んだ。どこか心の奥底で納得していたからかもしれない。









こんなに誰かを愛しいと思ったことを。




確かに初めて感じる気持ちに戸惑いばかりだった。正直、初恋だったから。この歳になって初恋なんて本当に馬鹿げていると思った。



身体だけ大きくなった俺は何一つ心なんて成長していなかった。でもそんな俺の支えは―――――――――――やっぱり響子だった。



響子は大人で俺が守る必要すら無くさせる。聖母マリアみたいな優しさで包みこんでくれた。







結局は恋と呼ばれる感情に変わるのも時間の問題だったんだ。俺は遅かれ早かれ響子を好きになっていたと思う。
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