牙龍−元姫−
響子が戒吏に惹かれているのは眼に見えていた。でも協力してあげようとは微塵も思わなかった。



最低でも構わない。



響子が戒吏のモノになるなんて、俺じゃない誰かのモノになるなんて想像つかなかったから。













俺の想いも虚しく響子は戒吏と付き合い始めたけど…


でも結局は別れたんだよな。


響子が裏切ったから。


その時の俺は響子が裏切った悲しみよりも響子が戒吏と別れた嬉しさのほうが強かった。


卑怯でも構わない。それだけ俺は響子が好きだったから。それをチャンスとさえも思ってしまった。








でも何時しか想いは憎しみへと変わり始めた。響子が裏切り者だから?―――――――違う。初めは俺に何一つ言わず俺の元から去ったことだった。



だけど段々歯止めが効かなくなり自分でも何でそんなに響子に憎しみを抱いているのかさえわからなくなっていた。



いつもこんなときは響子が傍に居てくれたのにと、考える度に我を失い憎悪がただ増すばかり。










なんていう悪循環なのか

自分でさえも、呆れる



そう思えば最近の俺は冷静なのかもしれない。響子を単純に嫌いだと胸を張って言えた、前までは。―――――でも今は、嫌われたらどうしようと言う気持ちが付き纏う。こう考え始めるようになったのはいつからだ?


きっと寿々に言われてからかもしれない。


寿々に、と言うよりは


“第三者の言葉に”耳を傾けたからかもしれない。










――――俺は俯いていた顔をあげ前を見据え、相変わらずだらだら歩く蒼衣の横にいる寿々を見る。寿々と遼太はまた喧嘩している。うるせえって。此方はセンチメンタルだっての。



ハッキリ言って寿々は馬鹿だ、本気で。でも癪だけど、コイツに言われて気がついたんだよな?馬鹿だけど。





なあ、響子

俺に言った事覚えてるか?






『目の前に見えるものだけが真実だとは限らないんだよ?』




……それってさ、いまの響子のコトみてえだな
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