牙龍−元姫−





失って、はじめて

気がつくものがある


俺は当たり前という日常が決して揺るがないものだと思っていたんだ。当たり前の日常が崩壊してやっとそれに気がつかされた。


響子といるたった数秒でも数分でも俺にとっては大切だった。でも一緒に過ごす時間でさえ当たり前だからそんな事気にした事はなかった。俺の考えは浅かった。






屋上に続く階段を上りながら思い出す――――――――――この階段を一緒に上っていた響子はもういない。

響子への憎悪が薄まった今、じわじわと実感させられる虚無感にグッと手を強く握りしめた。







「空たーん?大丈夫かーい?」



手を俺の顔の前で振る寿々。何がだよ?と尋ねると、



「だって何か眉間に寄ってるし」





それに。と続けて言われた言葉に俺は眼を見開いた。






言葉に?

違う

寿々に?

違う










―――――――――だって泣きそうだよ?空たん






自分にだ。
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