牙龍−元姫−


振り返る女の子は何を言われるのかと、又もやおどおどし始めた。友達も同じく振り返ったがずっと何とも言えない顔つき。




「確かに気持ちには応えられないよ…」




でも


そう言うと続けて




「君の瞳は嫌いじゃないよ」




あの決意を秘めた真っ直ぐで揺らが無い瞳は、僕の眼に止まった。おどおどしている君でもそんな瞳ができるのかと思った。


真っ直ぐに僕と向き合って気持ちを伝えてくれた子を無下にする程僕は酷くないからね。




「好きになる人は選んだ方がいいよ」



遠回しに僕を好きになるな―――そう告げた。


辛い想いをするのは僕じゃない。君なんだから。何も君だけに言えたことじゃないけどね。







そう言う僕におどおどしていた女の子はグッと唇を噛み締めたかと思えば――‥








「こっ、後悔はしていません!」




―――――七瀬くんを好きになったこと!






未だに鎮まりかえる廊下でそう叫ぶと友達の手をもう一度掴み、走り去って行った。廊下で遠巻きに見ていた野次馬の中に紛れ、その後ろ姿はもう見えない。


僕は彼女が走り去っていった方を見つめる。






"後悔していない"





少し度肝を抜かれた。言い返されたのは始めてだったから。

久々に新鮮な女の子に会った事で少し自然に頬が緩んだ。


次に好きなれる人が現れたときには良い恋できたらいいね―――――――そう心で女の子に語りかけている珍しい自分が居た。
< 161 / 776 >

この作品をシェア

pagetop