牙龍−元姫−
咄嗟に庵が焦り顔を見せた理由のは、体調の事は勿論だが―――――――響子と話せるチャンスを逃すことに焦っていた。


次はいつ話せるか分からない。今会ったのはただの偶然。なら次の偶然はいつ?そんな考えが庵の焦りを加速させる。







「送っていこうか?」

「え、いいよ。一人で帰れるし」






僕が一緒にいたいから。




なんて言えるハズもない庵は只、焦る。少しでも時間を延ばそうと送ろうとしたのだが、あっさり断られた。


どうしようかと、あれやこれやと考える間に庵の心の内を知る由もない響子は足を一歩前に進めた。




「なら私は帰るから。ばいば―――――――‥」

「ちょ、ちょっと待って!」




腕を半ば無理矢理掴むと庵は響子の言葉を悟る。行く手を阻まれた事に驚いた響子は口に出さずに、まじまじと庵を見つめた。




「あ。ご、ごめんっ」




無理矢理掴んだ腕を離し謝る。反射的に引き留めてしまった為か、庵もそんな行動を取った自分自身に驚いていた。慌てる庵を不審に思いながらも戸惑い、頷く響子。






―――――――またも二人に沈黙が訪れた。



廊下に設置されている窓。空いた窓ガラスからは微かに声が聞こえ廊下に響き渡る。体育会系らしき声から推測すると、体育の授業の真っ最中なのか。


賑やかな外とは裏腹に重苦しい雰囲気を醸し出すは庵と響子。


――‥‥‥ここだけ空気が違った。
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