牙龍−元姫−
何秒たったか。何分たったか。
寧ろ何時間と錯覚させるほどに、居心地の悪すぎる空気。何とも言えない空気が漂う。
次はいつ話せるか、分からない。―――――そんな考えが庵の心を駆け巡る。なら言いたい事をいま言わないでどうする?
言わないで後悔するより、言って後悔する方が数倍マシだ。
「あのね、響子」
「うん?」
庵は自分の変化に気づく筈も無いがその瞳は先程見た女の子のような決心したような瞳だった。
当たって砕けろ、そう秘めた瞳。
「アイツら響子のこと気にかけているよ」
この話を持ち出すことは更にこの空気を重くすること間違いない。現に重くなったのを肌で犇々と庵は感じ取っていた。
でも。逃げてばかりは居られない―――ただ庵はその一心だった。
「ふうん。で?」
戒吏との接触でピリピリした余韻か、珍しく冷たく当たってしまう。響子らしからぬ冷たさ。
庵の言葉は引き金。誰しも持っているであろう負の感情。響子の負の歯車を回したのは確実に庵だ。しかし戒吏との接触を知らない庵はただ戸惑うばかり。
「"元通り"なんてあり得ないよ」
自分の気持ちを見透かされた庵は表情にこそ出しはしないが驚いていた。
いま戒吏を始めとし、空、遼、蒼が悩んでいるのを知っている庵。だから自分達が元の関係に戻れる日もそう遠くない。
そう思ったが―――――――響子にバッサリ否定の意を示された。