牙龍−元姫−
関係ない―――――そう言われ奥歯を噛み締める庵はただ響子だけを見つめる。響子も庵を見つめ返す。響子の大きな瞳は何を考えるているのか、さっぱり。


長い睫毛に影が掛かり哀愁を漂わせる。


その影が響子の心にも掛かっている―――――?庵はそう感じずには要られなかった。












――――‥いまでも相変わらずふわふわした雰囲気。この雰囲気がいつも好きだった。いまは目の前にいる響子は睨みもしない笑いもしない、人形のよう。


笑うときは華が舞うような綺麗な笑みだったのことが庵の脳裏に焼き付いていた。睨むとき怒っているのかわからないほどに可愛くてからかっていた記憶もある。






響子が居なくなってから


何かが足りなくて。
何かが抜けた感じで。






ずっと気づかないようにはしてたんだけどな…



庵はそう自分を嘲笑った。響子が居なくなってから自分の気持ちに気がつくなんて―――――いや、気づいていながらも抑えていただけかもしれない。




「僕は響子が好きだよ」




なのに。其がいまになって溢れてくるなんて。




いきなりのことで響子は無表情だった顔を歪めた。それは困惑で。目の前にいる庵が優しい柔らか笑みを浮かべる。

何故それをいま、言うのか。
ただ響子は困惑していた。




「…前にも聞いたよ」

「違うよ。前みたいな友達としてじゃなくて、」











「1人の女の子として」



その言葉に表情に響子は戸惑いを隠せずにいた。だって、いままでに見たことがない表情をしている庵がいるから。


愛しいと言わんばかりの瞳が響子を貫く。その愛しさを向けられているのは自分?――――――――分かりきった事を響子は素直に受け入れず困惑していた。




「嘘言わな――‥」

「嘘なんかじゃない。響子が離れた日からずっと心が空っぽだった。それに漸く気づかされた」






―――卑怯だよ


響子は不覚にも泣きそうになった。こんなにも愛しさを向けられるなんて思ってもみなかったから。


痛いほどの愛が伝わる。


胸に響き心が安らぎ暖かくなるのが分かる。それが滲み出て手の指先が微かに震える響子。


――‥でも同時に虚しくもなる


その気持ちを素直に受け止められない自分に、こんなことしか言えない自分の方が卑怯だと思ったから。







「なら今は大丈夫なんじゃない?」

「―――え?」

「隙間を埋めてくれる橘さんが居るじゃない」




最低だ、私。
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