牙龍−元姫−
自覚したなら尚更、
「……誰にも渡さない」
独占欲は強まるばかり。響子先輩に初めて会ったばかりもこんな感じだったな、と沁沁思い出した。
初心に返った気分だ。
どうせなら時間も戻ってほしい。出来ることなら響子先輩と牙龍が出逢う前に。そんな事が出来るなら次は死んでも牙龍と響子先輩を会わせないのに……
「……なんで俺、年下なわけ」
響子先輩と同じ年が良かった。社会に出ればたかが二歳と思うかもしれない。でも餓鬼の二歳はかなりデカイ。
「――――それは、ちーくんが生まれるのが遅かったからさっ」
突如語尾に音符をつけ、かなりのハイテンション。両手を広げ、高々と告げる男。闇夜に紛れ姿を現したのは目当ての人物。
「待たせたね、ちーくんっ」
「何、用って」
「そんなピリピリしちゃダメじゃないか!怖いっ――――――――ちょ、本気で睨まないでくれ!」
冷やかな眼で睨むと慌てて謝ってきた。溜め息を付かれ‘ちーくんは冗談が通じないな’と呆れられた。溜め息をつきたいのは俺の方なんだけど。
そいつは業とらしく、閃いた顔をし口を月形にし妖しく笑った。
もしかして
―――――響子ちゃんと七瀬庵が一緒にいるところを見て怒ってるのかい?
「………お前」
「うはははッ!今日のちーくんは私好みだ。実にいいよ、その瞳。ゾクゾクするじゃないか!」
下で唇を舐めるその仕草は獲物を狩る獣そのもの。ギラギラと欲望が隠しきれず滲み出ている。
最悪。
て言うか何で知ってんだよ。
コイツの情報網の範囲を疑う。
相変わらずコイツのこういう面は苦手だ。
人間に対して歪んだ愛と哲学を持ち合わせ人間観察を趣味としている、この男。
"人"に恋し"人"をこよなく愛し、"人類"に平等かつ純粋に愛を捧げる。【愛】はただの蝕む毒だ。
コイツにとって"人"は人形。ただの人形遊びが好きなんだ。人形の憎悪に塗れた顔や苦痛に歪んだ顔がコイツを刺激する。
「最近姿を見せてないから、心配になってね?」
「御託はいい、要件は?」
「うふふふ。そんなに焦らないでくれよ!捕って喰ったりしないさ仲間じゃないか?」
――――仲間
確かにそうかもしれない、表面上は。
「それとも、まだ怒ってるのかい?あのときのことを」
全てを見透かすような瞳。俺の、鼓動、仕草、心中を手に取るように把握しているかのような。
そして俺を見て嬉しそうに笑う。