牙龍−元姫−
「前にも言っただろう?ただの娯楽さ!なんの悪意もない、純粋かつ善意に下らないお遊戯を盛り上げただけなのだから!」
妖しく妖しく妖しく笑う。それはとても奇妙で不気味で。人間に対する狂気的な執着心。コイツは人の憎悪や恐怖に満ちた顔が大好物だから。
愉快だと言わんばかりの笑みで、ただ妖しく笑う。
「響子ちゃんを傷つけたことに怒ってるのかい?なら誤解もいいところだよ、ちーくん」
普段は気にならない、その呼び名。だけど今は憎たらしい。ふざけたように話す話し方も、高い声のトーンもおちゃらけた様子も――全てが俺をの癪に障って仕方がない。
「私は種を蒔いただけじゃないか?芽を育てのは響子ちゃん。花を育てのは牙龍。私はただの傍観者さ」
『実にいい花が咲く瞬間が見れたよ』傍観者を名乗る男は満足げに笑う。
暗い暗い暗い夜道。
深い深い深い闇夜。
この狂喜に渦巻いた感情に足首から呑み込まれそうになる。
「咲いた花には興味ないんだよ。安心してくれ響子ちゃんには、もう興味ないから」
「‘には’?」
「最近、面白い男と会ってね。新たな喜劇が始まりそうな予感なのだよ!」
心を踊らせ声を弾ませる。喜劇は悲劇か。この男が生易しいハッピーエンドで終わらせるわけがない。
求めるのは残酷で残酷で残酷で斬新かつ悪質で、徹底的に完璧なバットエンド。
―――――誰、そのターゲットになった哀れな奴は。
顔も知らない男に同情せずには要られなかった。