牙龍−元姫−





私の手を振りほどいた早苗の目には涙。こんなにも早苗が取り乱す姿を見るのは初めてで少し狼狽える。思わず私のほうが泣きそうになってしまった。溜めた涙を流さない早苗は"強い"と思った。こんなときにそう思うのは可笑しいけど早苗はどんなときでも弱味を見せるのを嫌うから。






「響子はいいよねっ!?努力しないでも元から可愛いんだから!」





軋む。





「私は引き立て役らしいよ!響子の!て言うかそんなのイチイチ分かってるつーの!知ってて一緒にいるんだから!私が誰と居ようがお前等に関係ないし!」





軋む。





「第一に!林は私じゃなくて響子に気があるみたいだし!?良かったね?響子!林かっこいいし!お似合いじゃん!私はあんなヤツどうでもいいから!」





軋む。



心が軋む。



軋む音はいったい誰の心頭からなんだろう?



無理して笑おうとする早苗を見ていられなかった。



林くんなんてどうでもいいよ…



ねえ?
そんな明るく振る舞わないでよ…



痛々しくて見ていられないよ…








「もう止めたら?」





だから言ってしまった、この一言を。



私は早苗を心配して言っただけだった。なのにどうしてこんな事になったんだろう……



言葉って難しいな…



辞書も古典も昔から読んでいたのに。国語も得意なのに。やっぱり人の心理は理屈じゃこじつけられない。
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