牙龍−元姫−
「もう充分早苗は可愛いよ?でも私は前の早苗の方が好きだよ…?」
私は早苗がきっと理解してくれると思った。言えば前の早苗に戻ってくれると思っていたため気が付かなかった。
―――――――――このとき私は早苗の変化を見落とした。僅かに早苗の瞳に私への憎しみが込められたのを。
「早苗には早苗の魅力があるよ。ね?」
私は早苗に向かって笑顔を見せる。
純粋に嫌みなんてなかった。ただ"早苗のために"の一心だった。こう言うことを世間では"お節介"と言うんだよね。
「いまの早苗凄く細いよ。ご飯も食べ――――」
「 う る さ い ! 」
―――――バシッ
「…………ぇ」
私は呆然とずきずきと痛む頬を押さえた。何が起きたのかよく理解出来ない。早苗が声を荒げたと思えば手が私の頬に当たった。
………叩かれた?
理解した途端やけに痛い。頬よりも胸が痛む。何でそんな早苗に睨まれているのかが解らない。
「………っ」
「アンタなんかに……ッ!アンタなんかに言われたくない!」
凄い形相で早苗が私を睨み付けている。怒りを隠そうともせず露にしている。私は早苗に叩かれた頬に手を添えて状況を飲み込もうと必死だった。とりあえず早苗の荒立った気を治めたい。
「………さな」
「気安く名前で呼ばないで!アンタなんかに呼ばれたくない!」
「っ……ごめ、ん」
いま私が傷つくのは間違っているのかもしれない。でも傷つかずには要られなかった。
―……伝う涙がしょっぱかった。