牙龍−元姫−
一瞬だけユミさんが後ろにいる2人を横目で確認したのを私は見逃さなかった。
胸ぐらを掴む手を緩めるとYシャツから手を離したユミさんは一歩下がって私と距離を取る。
そして吊り上がった目は私を貫く。黒いマスカラとアイラインで囲まれた目は里桜と同じなのにユミさんとの違いは歴然。微かに震える指先はユミさんが恐いと語る。
「もう一度だけ聞く。タカシに心当たりは?」
「……ないです」
そう答えた私にユミさんは――――――――‥笑った、
声を出さず。肩を揺らして。
ただ嘲る。
ユミさんは後ろにいる2人にアイコンタクトをすると再び私に視線を向け―――――――…
「――――ヤれ」
そう言った。
その言葉に厭な笑みを浮かべた彼女達。ユミさんの後ろに控えていた2人が徐々に近づいてくる。
ユミさんを通りすぎ私の目の前に現れた、その瞬間。
―………頬に鋭い痛みが走った。
「………ッ!」
室内に響く鈍い音。
痛みのあまり声が出なかった。掌をグーにして思いっきり殴られたのは始めて。殴られた反動で私の身体は床に叩きつけられた。
じわじわと口のなかに広がる鉄の味に「ああ、殴られたんだ…」と考える。取り乱す事もなく意外にも冷静だった。切れた口から出る血の味を感じながら目の前で仁王立ちする彼女達をボーッと見上げる。
私が床に倒れた反動で第2生物室に置いてある薬品がガタガタと音を立てた。豪快に揺れた棚に目を呉れないほど頬がジンジンと痛んだ。