牙龍−元姫−



表情を変えない私にユミさんは怒りを露にしていた。先程から私には手を加えず見ているだけの余裕の笑みが消え去っていた。



痛くないから表情を変えないわけじゃない。強がって澄ましているわけでもない。



視界は霞んでいる。目蓋を閉じないようするために必死だから。無駄に労力を使いたくない。痛みで表情をいちいち変えることに労力を浪費しないために自然と無表情になっているだけだった。



そんなことを知らないユミさんは怒り狂った表情。よっぽど私が憎く泣き叫ぶ顔を見たいらしい。



サドなのかな…?



床にひれ伏しながら完全に場違いなことを考える。だけど私は結構本気でそう思った。





―――――不意にユミさんは棚に駆け出した。いきなりガタガタと椅子を倒しながら棚に駆け寄る。



バァン!と勢いよく棚の戸を開けたときの震動は凄まじい。棚のガラスが割れそうだった。



それさえユミさんは気にも止めず棚の中を漁っている。多様な瓶が入った棚を。無我夢中でガサガサと何かの瓶を探す行動をとる。



見ていただけだったユミさんが急に謎な行動に出たため私を蹴っていた2人も足を止めた。彼女達は顔を見合せて不思議がる。



そして自然と2人の視線は不可解な行動をするユミさんに向かう。



私も重い目蓋を持ち上げユミさんを見つめた。





「ユミ?」

「…………あった」





友達の呼びかけに答えること無く棚からある物を取り出していた――――――――――瓶?



漁っていた棚から1つの小瓶を取りだした。



瓶を持ちながら「フフフ」笑う彼女。暗いこの空間。オレンジ色の夕陽をバックに笑うその姿は何とも不気味だった。
< 213 / 776 >

この作品をシェア

pagetop